以前の記事で、東大生の多くはピアノ経験があることを紹介しました。今回はアメリカのエリート大学と音楽についてご紹介します。
ハーバードやMIT(マサチューセッツ工科大学)などアメリカのエリート大学は、音楽の授業が充実しています。「勉強が忙しいはずのエリート大学でなぜ音楽を?」と思う方もいるかもしれません。エリート大学が考える音楽の大切さや役割を見てみましょう。
アメリカのエリート大学では音楽が必修?
MITやハーバードなど、アメリカのエリート大学には音楽の授業を開講しているところが多くあります。例えばMITには全学部生が約4,000名いるのに対し、毎年1,500名ほどが音楽の授業を履修しています。MITで開講されている授業は、以下のとおりです。
- 文化・歴史
- 作曲・理論
- 音楽テクノロジー
- 演奏実技(パフォーマンス)
2020年には「MIT(マサチューセッツ工科大学)音楽の授業」という本も出版されており、エリート大学の音楽の授業が注目されています。
なぜ音楽の授業を大切にするのか
例えばMITは科学や工学が専門の学校であり、学生たちは自分の専攻分野の研究で忙しく過ごしています。工学系の大学になぜ音楽の授業があるのでしょうか。音楽の授業が充実している背景に、技術者たちの「創造的な問題解決法を考えるためには文学や芸術の経験が役立つ」という考えがあります。
技術開発や問題解決のために音楽が必要
現代は技術が進歩していると同時に、多くの問題が発生しています。例えばAI技術は、私たちの代わりに問題を解決してくれる便利な技術として広まりました。しかし、AIが出してくれる答えは多くの人には合うものの、文化や人種・地域が異なれば合わない可能性もあるでしょう。また新技術を開発するためには、環境を汚染させてしまうこともあります。
技術者たちは、「技術の進歩と同時に起きている問題の多くは、人間性の理解の欠如などテクノロジー以外の側面から発生している」と考えています。音楽と技術開発は一見無関係ですが、MITでは「楽器を演奏したり練習したりすることで身に付くスキルが技術開発や問題解決に活かせる」という考えです。
音楽を通して発想力や協調性を身につける
言葉や数字は左脳が、音楽は右脳が処理します。論理的に物事を考えるのは左脳で、これまでの教育や問題解決でも左脳が重視されてきました。しかし、「どう社会を変えるのか」「問題解決のために、新しいアプローチをしなければならない」というときは、今までにない発想力、つまり右脳の力が求められます。
音楽を聴くときや演奏をするときに働くのは右脳です。音に感情を込めたり、演奏するときに何かをイメージをしたりする発想力は、問題解決のために欠かせない能力だと考えられています。
また、仲間と演奏するときは、他人の意見を受け入れたうえで最終的には「自分たちはこのように演奏する」という着地点を見つけねばなりません。技術開発を行うときも同様で、他の専門家の意見を受け入れたり、リーダーシップを発揮して意見をまとめたりすることが必要です。
技術開発や問題解決においては「新しい考えを生み出す発想力を持つ」「他者の意見を受け入れる」ことが大切だと考えられており、それらの力を養う方法のひとつとして音楽の授業が用意されています。
音楽は、発想力を育てるために大切な学びのひとつ
日本では、進学や受験・学校の勉強を考慮してせっかく続けてきた音楽の習い事をやめてしまう傾向が見られます。しかし、世界では「音楽を通して身につく力は、技術開発や問題解決にも活かせる」という発想が増えています。
大切なのは、身につけたスキルを異なるジャンルの学問でも活かす考え方です。楽器を演奏することで、新しい発想力や表現力が身につきます。それらは技術の開発や社会の問題解決で欠かせない力のひとつです。小さな頃から音楽に触れることで、柔軟な発想力や表現力が身につきやすくなるでしょう。
日本の大学(音楽大学や音楽学部ではないところ)では、音楽の授業はまだまだ少ない状態です。音楽を通して発想力や表現力を身につける機会を失っているかもしれません。音楽教室などに通うことで、音楽を学んだり親しんだりする機会を増やしてはいかがでしょうか。また、音楽を続けてきた場合は受験などでやめたりせず、ぜひ継続することをおすすめします。